寺田寅彦の書くものが好きな私としては、
この本を図書館で見つけて舞い踊った。
しかも『名随筆で学ぶ英語表現: 寺田寅彦 in English』にいたっては、
音声ストリーミングファイルが公開されている。
これはだいぶ楽しい。
本書に収められているもののなかには青空文庫で公開されているものもあるので、
青空文庫を見ながら英語ストリーミングを楽しむ…ということさえできてしまう…。
内容は物理のことがメインなので、きちんと理解しようとしたらもちろん難解なのだけど、
寅彦の表現は美しい上にユーモアがあり、どこか人懐こさみたいなものがあってたまらない。
金平糖の物理から出発したのが、だんだんに空想の梯子を攀じ登って、とうとう千古の秘密の謎である生命の起源にまでも立入る事になったのはわれながら少しく脱線であると思う。近年の記録を破った今年の夏の暑さに酔わされた知人の酔中語のようなものであると見てもらうほうが適当かもしれない。
『名随筆で学ぶ英語表現: 寺田寅彦 in English 』(p.71)
これが訳者トム・ガリー氏の翻訳ではこうなる。
I began with the physics of kompeito but gradually climbed the ladder of speculation until I reached that eternal mystery- the origin of life. Perhaps you should regard what I've written as just the drunken ramblings of a fool intoxicated by the hottest summer on recent record.
『名随筆で学ぶ英語表現: 寺田寅彦 in English 』(p.66)
「 ladder of speculation」、「drunken ramblings of a fool」という表現がまたバッチリ。
寅彦のウィットや知性にきちんと合う英語の表現が確かにある、ということと、翻訳者の腕前にまたくらくらする。
それこそ酔っ払いのようになって、寅彦の思考と英語がダンスする様をじっくり味わえる、こんな素晴らしい本なのである。
ここにあるのは、
偉人の仕事を偉人たちが翻訳して、
それを偉大な出版社が音声を無料公開しているのを、
凡人が呆けて喜び忘我している図である。
寺田寅彦が好きでさらに英語が好きな人って日本にどれくらいいるのかわからないけど、決してマジョリティではないとは想像がつきます。
そんな激マイノリティーな我々のために…!
こんなに素晴らしい本が出ていることに感謝を禁じえないです。ありがとうございます。
トム・ガリー/松下 貢 岩波書店 2021年06月15日頃 売り上げランキング :
|